バイクの洗車というと、「汚れたからきれいにするもの」というイメージが強いと思います。
もちろん、それで正解です。
泥だらけよりピカピカの方が気持ちいいですし、洗車した直後はなぜか5馬力くらい増えた気がします。
実際には増えていません。
ただ、バイクの洗車にはもう一つ大きな意味があります。
車体を近くでじっくり見る機会になることです。
普段は気づかなかったオイルのにじみ、小さなボルトの緩み、タイヤに刺さった異物、ホースのひび割れ。
こうした異常を偶然見つけることがあります。
洗車は、バイクをきれいにしながらできる簡単な健康診断でもあります。
この記事の結論
洗車は、きれいにしながら漏れ・摩耗・傷みなどの変化に気づく時間です。
オイルや液漏れの跡を確認し、異常があれば先に点検する。
冷えた車体を、穏やかな水流と適合する洗剤で洗う。
水分を拭き取り、チェーンを乾燥・給油。タイヤとブレーキに油分を付けない。
洗車中の目視確認だけで安全を保証できるわけではありません。車種の取扱説明書を優先し、日常点検・定期点検も行います。
洗車前にバイクを一周する
洗車すると普段見ない場所を見る
普段バイクに乗るとき、エンジンの裏側やスイングアームの下までじっくり見る人は多くありません。
ところが洗車では、「ここも汚れてるな」と手を伸ばします。
すると、「ん?」となることがあります。
ボルトが一本妙に飛び出している。ホースの表面に細かいひびがある。エンジンの合わせ目だけ湿っている。チェーンの一部分だけ動きがおかしい。タイヤに何か光るものが刺さっている。
洗車をしていなければ、しばらく気づかなかったかもしれません。
そのためモトシルでは、洗車を単なる掃除ではなく、車体全体をざっと点検する時間として考えるのがおすすめです。
水をかける前に見る
いきなり水をかける前に、まず一度バイクを見てみます。
ここが意外と大事です。洗ってしまうと、オイルの跡や液漏れの跡まで流れてしまうことがあるからです。
見るところは難しくありません。
- タイヤに異物がないか。
- 車体の下に液体が落ちていないか。
- エンジン周辺が濡れていないか。
- ホースが外れていないか。
- 何かぶら下がっていないか。
普通に一周見るだけです。
ここで異常を見つけたら、洗車より先にそちらを確認します。
バイクが「ちょっと漏れてます」と教えてくれているのに、とりあえず泡まみれにして証拠を消す必要はありません。
冷ましてから、砂や泥を落とす
エンジンが熱いまま洗車しない
ツーリングから帰ってきて、「よし、今から洗おう」となることがあります。
しかしエンジンやマフラーがまだ高温なら、十分に冷ましてから洗車した方が安全です。
高温になった部品へ急に冷たい水をかけるのは避けたいですし、何よりマフラーやエキゾーストパイプに触れると普通にやけどします。
見た目以上に熱い部分があります。
特にエキゾーストパイプは、「もう冷めただろう」という人間側の希望をあまり聞いてくれません。
十分に冷えてから作業しましょう。ブレーキも走行直後は高温になっていることがあります。
まず水で大きな砂や泥を落とす
いきなりスポンジでゴシゴシすると、車体表面についている砂を引きずって傷を付けることがあります。
まず、強い水圧をかけずに大きな砂、泥、ホコリを流します。
泥汚れが多いオフロード車なら特に重要です。
固まった泥をスポンジだけで戦おうとすると、洗車というより研磨に近くなってきます。
水でふやかして、無理なく落とします。
- STEP 1車体を一周して異常を見る
漏れ、異物、ホースや配線の状態を確認する。
- STEP 2熱い部品が冷えるまで待つ
エンジン、マフラー、ブレーキが冷えてから作業する。
- STEP 3砂や泥を穏やかな水流で落とす
泥はふやかして落とし、砂をスポンジで引きずらない。
- STEP 4適合する洗剤で洗い、十分にすすぐ
部品の材質と製品の指定に従い、洗剤を残さない。
- STEP 5水分を拭き取り、乾燥後に給油する
チェーンルブをタイヤやブレーキへ飛散させない。
バイクに高圧洗浄機を使ってもいい?
高圧洗浄機を使っている人も多いと思います。広い範囲の泥を落とすには便利です。
ただし、バイクには水を勢いよく当てたくない場所があります。まず実車の取扱説明書を確認し、高圧洗浄機を避ける指定がある車種では使わないでください。
例えばHondaのCB650R/CBR650R E-Clutchの取扱説明書では、高圧洗車機の使用を避けるよう指定されています。距離を取れば、どのバイクでも安全に使えるとは言い切れません。
特に強い水流を避けたいのが、次のような部分です。
- ホイールベアリング周辺
- ステアリングヘッド周辺
- チェーンのシール部分
- 電装コネクター
- スイッチ類
- メーター周辺
- エアクリーナー吸入口
- マフラー出口
こうした部分へ至近距離から強い水圧を集中させるのは避けます。
普通の雨では入らない場所へ、水を力技で押し込んでしまうことがあります。
洗車では、ホースなどの穏やかな水流を使い、吸入口やマフラーの中へ水を入れないようにします。
汚れを落としたいだけなのに、防水性能の実地試験を始める必要はありません。
洗剤は何でもいいわけではない
基本的にはバイクや自動車用の中性洗剤を使うのが扱いやすいでしょう。車両の取扱説明書と洗剤の使用条件を確認して使います。
強力な洗剤ほどよく落ちそうに見えますが、塗装、アルミ、樹脂、ゴムなどへの影響も考える必要があります。
特にアルミパーツやアルマイト処理された部品は、強い洗剤で変色することがあります。
「汚れが落ちた!」と思ったら、「色まで落ちた!」では困ります。
初めて使う洗剤なら、目立たない場所で試すのも一つの方法です。
洗剤は指定の濃度で使用し、洗い終わったら十分にすすぎます。つや消し塗装など、ワックスやケミカルの使用に制限がある仕上げもあります。
洗いながら見る6つのポイント
ここからが、普通の洗車と少し違うところです。
ただ汚れを落とすだけではなく、洗いながら車体を見ます。
洗車中の点検早見表
スマートフォンでは表を左右にスクロールできます。詳しい見方は表の下で説明します。
| 部位 | 確認するもの | 気になる変化 |
|---|---|---|
| タイヤ | 溝・表面 | 釘やネジ、ひび割れ、偏摩耗、スリップサイン |
| チェーン | 動き・シール・張り | 一部の固着、サビ、シールの傷み、張りの異常 |
| ブレーキ | パッド・ディスク・キャリパー | 極端な摩耗、深い傷、フルードの濡れ |
| エンジン | 合わせ目・周辺 | オイルにじみ、以前なかった濡れ |
| フロントフォーク | インナーチューブ | オイルの付着、湿り、汚れの付き方 |
| ホース・配線 | 表面・固定・取り回し | ひび、擦れ、タイラップの外れ、コネクターの緩み |
タイヤ
タイヤを洗うときは、溝や表面を見ます。
- 釘やネジが刺さっていないか。
- ひび割れはないか。
- 妙な偏摩耗がないか。
- スリップサインが出ていないか。
普段立った状態から見るより、しゃがんで近くから見た方が異常を発見しやすくなります。
「なんかキラッとするな」と思ったら、それが釘だったということもあります。
見つけても、その場ですぐ引き抜かないでください。抜くと空気が急に抜ける場合があります。空気圧や漏れの状態を確認し、走行せずに整備店へ相談する判断も必要です。
チェーン
チェーンを清掃するなら、同時に動きも確認します。
- 一部だけ固くなっていないか。
- サビが出ていないか。
- シールが傷んでいないか。
- 張り具合がおかしくないか。
汚れを落とすと、今まで見えていなかった状態が見えてきます。
黒い汚れの下からピカピカのチェーンが出てくることもあれば、「あれ、思ったよりサビてるな」という現実が出てくることもあります。
洗車は、ときどき現実をよく見えるようにします。
チェーンの清掃方法は車両とチェーンの指定に従い、シールチェーンに対応したクリーナーを使います。エンジンは止めたまま作業し、エンジンの力で後輪を回しながら清掃しないでください。
ブレーキ
ホイール周辺を洗うときは、ブレーキパッドやディスク周辺も見てみます。
- パッドが極端に減っていないか。
- ディスクに深い傷がないか。
- キャリパー周辺がブレーキフルードで濡れていないか。
ただしブレーキディスクやパッドに、ワックスや油分のあるケミカルを付着させないようにします。
ブレーキは滑りを良くしたくない場所です。
ここだけは「ツルツルになりました」は完全に失敗です。
フルードの漏れが疑われる場合は、洗い流して済ませず、走行前に整備店へ相談してください。
エンジン周辺
洗う前にオイルにじみがないか見て、洗った後も確認します。
一度きれいにしておけば、次にオイルがにじんだとき、「ここから出ているな」と発見しやすくなります。
古いバイクの場合、多少のにじみを抱えていることもあります。
ただ、今まで乾いていた場所が急に濡れ始めたなら、変化として覚えておきます。
フロントフォーク
インナーチューブをきれいにするときは、オイルが付着していないか確認します。
フォークオイルが漏れていると、インナーチューブ周辺が湿っていたり、汚れが付きやすくなったりします。
ただの水なのか、油なのか。
洗車の前後で見ると分かりやすくなります。
ホースと配線
- ホースにひびがないか。
- 配線がどこかに擦れていないか。
- タイラップが外れてブラブラしていないか。
- コネクターが抜けかけていないか。
特に自分で電装品を追加したバイクなら、一度取り回しを確認しておきたいところです。
スマホホルダー、USB電源、ETC、グリップヒーターなど、バイクは後から配線が増えていきます。
気づけば純正配線より追加配線の方が存在感を出していることもあります。
洗車後は乾燥・給油とケミカルの使い分け
洗車後は水分を残さない
洗い終わったら、水分をできるだけ拭き取ります。
マイクロファイバークロスなどで水分を取り、細かい隙間はエアブローが使えると便利です。ただし強いエアで水をシールやコネクターの中へ押し込まないようにします。
ボルト穴やスイッチ周辺、エンジンのくぼみなどには水が残りやすい場所があります。
自然乾燥だけでも乾きますが、水滴が残ると水垢になったり、場所によってはサビの原因になったりします。
チェーンは洗車後に給油する
チェーンが洗車で濡れたり、清掃したりした場合は、指定の方法で乾燥させてからチェーンルブを適切に給油します。
せっかくきれいにしたからと、そのまま終了してはいけません。
チェーンにとって、「きれいになりました。油も全部なくなりました」は、あまりうれしい報告ではありません。
清掃と給油はセットで考えます。余分なルブは拭き取り、タイヤやブレーキに飛散させないようにしてください。
ワックスやコーティング剤を付けてはいけない場所
車体をピカピカにするケミカルは便利ですが、どこにでも使えるわけではありません。
特に避けたいのが、タイヤの接地面とブレーキ周辺です。
タイヤワックスなども、バイクの場合は使用場所に注意が必要です。安全のため、バイクのタイヤにはワックスや滑りやすくなるケミカルを使わないでください。
自動車と違って、バイクはタイヤを倒し込んで曲がります。
接地面に滑りやすい成分を付けてしまうと危険です。
ブレーキディスクも同じです。
見た目より摩擦力を優先してください。
ここは美容より機能です。
洗車後はブレーキも十分に乾かします。水で効き具合が変わることがあるため、異常がないことを確認したうえで慎重に操作してください。
塗装面の仕上げ
ワックスやコーティング剤は、塗装の仕上げと製品の指定を確認して使う。
タイヤ・ブレーキ
ワックス、油分、チェーンルブなどを付着させない。
洗車後にエンジンがかからなくなったら?
洗車直後にエンジンがかからない。
これはなかなか焦ります。
水が電装系や点火系に入り込んだ可能性も考えられます。エアクリーナーやマフラー内部への浸水も、始動不良につながることがあります。
古いバイクの場合、プラグキャップやコネクター周辺の防水性が弱くなっていることもあります。
洗車のたびに同じ症状が出るなら、「水をかけなければいい」だけではなく、どこから水が入り込んでいるのか確認したいところです。
通常の雨と、洗車で開口部などへ強く水を当てることは条件が違います。正常な車両でも洗い方によって浸水するため、水の入り方と部品の状態の両方を確認します。
始動しないからと長時間セルを回し続けず、原因が分からないときや症状が繰り返すときは整備店へ相談してください。
まとめ|きれいになったついでに、調子も見ておく
洗車は「異常を探す日」にするといい
毎回工具を持ち出して本格的な点検をする必要はありません。
洗いながら、「これ緩んでない?」「ここ前から濡れてたっけ?」「このホース、こんなヒビあった?」と見るだけでも違います。
バイクは小さいので、車体全体を見るのにそれほど時間はかかりません。
タイヤ、チェーン、ブレーキ、フォーク、エンジン、ホース。
洗車のついでにざっと見る。
これだけでも十分です。洗車時の目視確認に加えて、日常点検や定期点検も行いましょう。
洗車の目的は、もちろんバイクをきれいにすることです。
でもせっかく隅々まで触るなら、車体の状態も一緒に見ておくと効率的です。
タイヤに異物が刺さっていないか。チェーンに異常がないか。オイルが漏れていないか。フォークが濡れていないか。ホースや配線に傷みがないか。
こうした小さな異常を早めに発見できれば、大きなトラブルになる前に対応できることがあります。
そして洗車が終わると、バイクはかなりきれいになります。
残念ながら馬力は増えません。
でも、乗りたくなる気持ちは確実に少し増えます。
洗車のついでに、いつもとの違いを見る。
きれいになったら、調子も見ておく。あわせて読みたい記事
参考資料
洗車方法と点検基準は、実車の取扱説明書・サービスマニュアルを優先してください。
