エンジンオイルには、鉱物油や全合成油などのベースオイルが使われています。これは前回の記事で説明しました。でも、実はそれだけでは完成しません。
市販のエンジンオイルには、エンジンを守るためのさまざまな添加剤が最初から配合されています。摩耗を防ぐもの、汚れをためないもの、錆を防ぐもの。いろいろな成分が、それぞれの仕事を担当しています。
今回は、普段は見えないエンジンオイルの中身を覗いてみましょう。
この記事の結論
エンジンオイルは、ベースオイルと添加剤を組み合わせて性能を整えた製品です。
添加剤は役割を分担し、エンジンとオイルを守ります。
ひとつの成分を増やすだけでは、性能は決まりません。
車両指定の粘度・規格に合う完成したオイルを選びます。
黒さだけで交換時期を決めず、後入れ添加剤も製品の用途と車両指定を確認しましょう。
エンジンオイルは最初から添加剤入り
エンジンオイルを料理に例えるなら、ベースオイルが食材で、添加剤は調味料です。
高級な食材でも味付けが悪ければ台無しですし、反対に調味料だけ立派でも料理にはなりません。エンジンオイルも同じです。
ベースオイルが金属同士を滑らかに動かす土台となり、添加剤が摩耗や汚れ、劣化などを抑える働きをします。
つまり、市販のエンジンオイルは、メーカーがベースオイルと添加剤を組み合わせて完成させた製品なのです。
添加剤にはどんな種類がある?
代表的な添加剤をまとめてみましょう。
| 添加剤 | 主な仕事 |
|---|---|
| 摩耗防止剤 | 金属表面を保護して摩耗を減らす |
| 清浄剤 | 汚れがこびりつくのを抑える |
| 分散剤 | 細かい汚れが固まるのを防ぐ |
| 酸化防止剤 | 熱や酸素によるオイルの劣化を遅らせる |
| 防錆剤 | 錆の発生を抑える |
| 消泡剤 | 泡立ちを抑える |
| 粘度指数向上剤 | 温度による粘度変化を調整する |
実際にはもっと多くの種類がありますが、まずはこのあたりを知っておけば十分です。配合の種類や量は製品によって異なります。
粘度指数向上剤は、温度が上がったときの粘度低下を抑えるためなどに使われます。入っていれば温度にかかわらず粘度が一定になる、という意味ではありません。
では、それぞれの仕事を少し詳しく見ていきましょう。
摩耗防止剤とは?金属を守る最後の砦
エンジン内部では、ピストンやカムシャフトなど、たくさんの金属部品が高速で動いています。
通常はオイルの膜によって金属同士が直接触れにくくなっていますが、強い力が加わったり、油膜が薄くなったりすると、金属同士が接触することがあります。そこで活躍するのが摩耗防止剤です。
代表的なものにZDDP(ジアルキルジチオリン酸亜鉛)があります。名前は難しいですが、役割はシンプルです。
ZDDPは、摩擦や熱が加わる部分で反応して金属表面に保護膜を作り、摩耗を減らす働きをします。
イメージとしては、金属が直接傷つく前に、代わりにダメージを受けてくれる保護層を作るようなものです。
オイルにも適量というものがあります。大盛り無料だからといって、何でも大盛りにすればいいわけではありません。
清浄剤と分散剤。オイルが黒くなるのは悪いこと?
エンジンオイルを交換すると、真っ黒になっていることがあります。「うわ、こんなに汚れていたのか!」と思いますよね。
でも、黒くなっているからといって、必ずしも寿命とは限りません。エンジン内部では、燃焼による汚れやオイルの劣化によって、さまざまな汚れが発生します。
そこで働くのが清浄剤と分散剤です。
清浄剤
汚れがエンジン内部にこびりつくのを抑える役割です。
分散剤
細かい汚れをオイルの中に散らし、大きな塊になるのを防ぐ役割です。
例えば、カレーを食べた後の鍋を想像してください。汚れが鍋底にこびりついて固まると、落とすのが大変ですよね。エンジンオイルも、汚れが内部に固着してしまうと困ります。
そこで、汚れがたまるのを防ぎ、細かい粒子をオイル中に分散させます。その結果、オイルが黒くなることもあるのです。
つまり、黒いオイル=仕事をしていないオイルではありません。

酸化防止剤とは?オイルの老化を遅らせる
エンジンオイルは熱や酸素の影響で少しずつ劣化します。これを酸化と呼びます。
例えば、揚げ物に使った油を何度も加熱すると、色や臭いが変わり、品質が悪くなっていきますよね。
エンジンオイルでも、熱や酸化によって粘度が変化したり、汚れの原因となる物質が発生したりします。こうした劣化を遅らせるのが酸化防止剤です。
ただし、酸化防止剤も永久に働くわけではありません。使用するうちに消耗していきます。全合成油であっても、添加剤入りであっても、定期的なオイル交換が必要なのはこのためです。
泡や錆を防ぐ添加剤もある
ほかにも、エンジン内部の錆を抑える防錆剤や、オイルが泡立つのを抑える消泡剤があります。
特にバイクでは、エンジンオイルがミッションの潤滑も担当している車種が多くあります。高速で回転するギアによってオイルに空気が巻き込まれると、泡が発生することがあります。
泡が多すぎると、安定した潤滑や油圧の維持に悪影響を与えるため、消泡剤が役立ちます。
泡立ちの良さが歓迎されるのはビールぐらいです。エンジンオイルにクリーミーな泡は必要ありません。
添加剤は多ければ多いほどいい?
ここまで読むと、いろいろな添加剤を大量に入れれば最強のオイルが完成しそうです。しかし、そう簡単ではありません。
添加剤同士には相性があります。ある性能を高めるために成分を増やすと、別の性能に影響することもあります。特にバイクで注意したいのが、クラッチとの関係です。
エンジンオイルには、摩擦を減らす目的で摩擦調整剤が使われることがあります。ところが、湿式クラッチのバイクでは、クラッチが適切な摩擦力を持つことも大切です。
滑りを良くすることばかり考えていると、クラッチまで滑ってしまう可能性があります。
摩擦調整剤入りなら滑る?
特定の添加剤が入っているかだけで、クラッチへの適合は決められません。
完成したオイルの摩擦特性
粘度・規格と車両メーカーの指定を組み合わせて選びます。
もちろん、摩擦調整剤が入っているだけでクラッチが滑るわけではありません。完成したオイルの摩擦特性が重要なのです。
だからこそ、バイクにはJASO MA・MA1・MA2・MBなどの規格による分類があり、メーカー指定に合ったオイルを選ぶ必要があります。
エンジン内部の摩擦は減らしたい。でもクラッチには必要な摩擦を残したい。なかなか注文の多い機械です。
規格の読み方は、JASO MA・MA1・MA2・MBの違いで詳しく説明しています。
市販の添加剤を後から入れたら、もっと良くなる?
カー用品店やバイク用品店には、エンジンオイルに後から混ぜる添加剤も販売されています。摩擦を減らす、エンジン音を静かにする、摩耗を抑えるなど、さまざまな効果が宣伝されています。
では、これらを追加すると、本当に性能が上がるのでしょうか。ここで思い出してほしいのが、市販のエンジンオイルには最初から添加剤が配合されているということです。
メーカーが考えて配合したものに、さらに別の成分を加えることになります。完成したラーメンに、持参した調味料を投入するようなものです。
おいしくなる可能性もありますが、少なくとも料理人はその味を想定していません。
もちろん、後入れ添加剤のすべてが無意味というわけではありません。目的に合った製品で効果が得られる場合もあります。
このあたりは面白い話が多いので、次回の記事で具体的な商品も交えて検証してみましょう。
まとめ:エンジンオイルは最初から完成された製品
エンジンオイルには、摩耗防止剤、清浄剤、分散剤、酸化防止剤など、さまざまな添加剤が使われています。
大切なのは、どれかひとつの成分が大量に入っていることではなく、それぞれが適切に働くことです。
高性能なベースオイルに、適切な添加剤を組み合わせて、初めて優れたエンジンオイルになります。
ベースオイルも添加剤も、適切な組み合わせが大切。
エンジンオイルは、ただの滑る液体ではないのです。そして次回は、今回少し触れた「後入れ添加剤」を詳しく取り上げます。
市販の添加剤には本当に効果があるのか。高級オイルにさらに添加剤を入れる意味はあるのか。宣伝文句だけでは分からない、その中身を調べていきましょう。
