目次
前回の「JASO MA・MA1・MA2・MBの違い」では、エンジンの摩擦は減らしたいけれど、湿式クラッチには動力を伝えるための摩擦が必要、という少しややこしい話を整理しました。MA・MA1・MA2・MBは、その摩擦特性に関係する分類です。
そして最後に残ったのが、値段の話。「MA2は高級そう。MAは普通。MBは安そう」。オイル缶の表示だけを眺めていると、なんとなくそんな順番に見えませんか?
そこで今回は、ホンダ・ヤマハ・カワサキ・スズキの純正オイルを、規格・油種・粘度・価格で並べてみました。すると、ホンダの最上級オイルはMA。スズキではMA2とMBが同じ値段。思っていた序列が、値札を見た途端に崩れ始めました。
この記事の結論
MA2だから高級、MBだから安物、という見方は成立しません。同じ分類にも価格の違う商品があり、違う分類でも同額の商品があります。
ホンダのRACINGは、化学合成油のMA。
ヤマハは10W-40同士でも2,420円と4,730円。
スズキのR5000は、どちらも1,870円。
この比較は価格と表示の確認です。性能試験やメーカー同士の品質ランキングではありません。使うオイルは車両の指定から選びます。
前回のおさらい|MA・MA2・MBは高級品ランキングではない
詳しい仕組みは前回の記事に譲り、今回必要なところだけ振り返ります。JASO規格のMA・MA1・MA2・MBは、クラッチの摩擦特性による分類です。
| 分類 | 今回押さえておく違い |
|---|---|
| MA | 湿式クラッチ向けの摩擦特性を持つ範囲 |
| MA1 | MAの中で、比較的低摩擦側の範囲 |
| MA2 | MAの中で、比較的高摩擦側の範囲 |
| MB | MA系より低摩擦側の分類 |
MAは「MA2になる前の古い下位規格」という意味でもありません。前回説明したとおり、MAの範囲に収まる摩擦指標の組み合わせや表示の選択によって、MAと表示される製品もあります。
MA2 > MA > MB
数字や文字を、値段・品質の順位に読み替えてしまう。
摩擦特性と商品設計
JASOの分類、ベースオイル、粘度、価格は別の軸。組み合わせて適合を確認する。
MA2の「2」は高性能の証明書ではありませんし、MBの「B」はバーゲン品のBでもありません。では、値札で確かめてみましょう。
ホンダ|最上級のRACINGがMAだった
まずはホンダのPro Honda。最上級に位置づけられるRACINGを含め、現在のラインアップを並べるとこうなります。
| 商品 | JASO | 油種 | 粘度 | 1L価格(税込) |
|---|---|---|---|---|
| STANDARD | MA | 部分合成油 | 5W-30 | 2,090円 |
| SCOOTER | MB | 部分合成油 | 5W-30 | 2,090円 |
| SPORTS | MA | 部分合成油 | 10W-40 | 2,530円 |
| PREMIUM SPORTS | MA | 化学合成油(100%) | 10W-30 | 3,300円 |
| RACING | MA | 化学合成油(100%) | 0W-30 | 4,400円 |
RACINGはMAで、1L 4,400円。MA2の表示がなくても、ホンダの最上級オイルです。「MA2の方が高級」という説は、ホンダの時点で早くも苦しくなりました。
一方、STANDARDとSCOOTERは、どちらも部分合成油・5W-30で2,090円。MAとMBの違いはあっても、値段は同じです。MAの中にも2,090円から4,400円までの商品があります。
なお、RACINGは0W-30、PREMIUM SPORTSは10W-30です。高い商品ほど自分のバイクに適している、とは限りません。表の価格順と、車両への適合は分けて見てください。出典:Honda Pro Honda公式ラインアップ。
ヤマハ|同じMA2・10W-40でも約2倍の価格差
ヤマハのヤマルーブでは、MA2の中だけでもはっきり価格差が出ます。
| 商品 | JASO | 油種 | 粘度 | 1L価格(税込) |
|---|---|---|---|---|
| スタンダードプラス | MA2 | 鉱物油 | 10W-40 | 2,420円 |
| スポーツ | MA2 | 部分合成油 | 10W-40 | 3,080円 |
| ブルー Forスクーター | MB | 部分合成油 | 10W-40 | 3,080円 |
| プレミアムシンセティック | MA2 | 化学合成油 | 10W-40 | 3,740円 |
| RS4GP | MA2 | 化学合成油 | 10W-40 | 4,730円 |
スタンダードプラスとRS4GPは、どちらもMA2・10W-40。それでも2,420円と4,730円で、差額は2,310円。RS4GPは約1.95倍、ほぼ2倍です。
同じMA2でも、鉱物油・部分合成油・化学合成油があります。規格と粘度が同じだからといって、商品設計まで同じになるわけではありません。MA2の「2」に、値段を2倍にする魔法はないようです。
さらに、スポーツはMA2、ブルー ForスクーターはMBですが、どちらも部分合成油・10W-40で3,080円。MBが安物という見方も、ここでまた値札に引っかかります。出典:ワイズギア ヤマルーブ公式ラインアップ。
カワサキ|50番より40番が220円高い!
カワサキでは、JASOとは別の数字にも面白い結果がありました。ここでは次の4製品を取り上げます。
| 商品 | JASO | 油種 | 粘度 | 1L価格(税込) |
|---|---|---|---|---|
| R4 | MA | 部分合成油 | 10W-40 | 3,190円 |
| Semi-Synthetic Oil by MOTUL | MA2 | 部分合成油 | 10W-40 | 3,300円 |
| elf Vent Vert 冴強 | MA2 | 全化学合成油 | 10W-50 | 3,520円 |
| elf Vent Vert 冴速 | MA2 | 全化学合成油 | 10W-40 | 3,740円 |
10W-50の冴強より、10W-40の冴速の方が220円高い。どちらもMA2・全化学合成油ですが、高温側の粘度の数字と値段は、大きい順に並びません。
公式資料では、冴強は高温側を50番にして保護を重視した設計、冴速は粘性抵抗を減らしてエンジンの反応を重視した設計と説明されています。狙いの違う商品であり、40番が50番より上位という意味ではありません。
カワサキには、この表以外にPremium Oil by MOTULもあります。表全体をメーカーの最高価格順と受け取らないようにしてください。価格は調査時点の公式ショップ、油種・設計は公式2026年カタログを参照しています。
スズキ|MA2もMBも、同じ条件で1,870円
最後はスズキのECSTAR。今回、条件を揃えて見ると一番分かりやすいのが、このR5000の2製品です。
| 商品 | JASO | 油種 | 粘度 | 1L価格(税込) |
|---|---|---|---|---|
| R5000 | MA2 | 鉱物油 | 10W-40 | 1,870円 |
| R5000 スクーター | MB | 鉱物油 | 10W-40 | 1,870円 |
| R7000 | MA2 | 部分合成油 | 10W-40 | 2,530円 |
| R9000 | MA2 | 全合成油 | 10W-40 | 2,860円 |
R5000とR5000 スクーターは、同じメーカー・同じ鉱物油・同じ10W-40・同じ1Lで、どちらも1,870円。規格の欄はMA2とMBですが、値札は完全一致しています。
「MA2が高級でMBは安物」という理論には、なかなか厳しい比較です。規格の文字だけで値段を当てようとしても、スズキの値札が答え合わせを許してくれません。
R5000・R7000・R9000を見れば、同じMA2の中に鉱物油・部分合成油・全合成油があることも分かります。JASOの分類とベースオイルの種類は、そもそも別の話なのです。出典:スズキ ECSTAR公式ラインアップ。
では、オイルの値段は何で決まる?
一般に、オイルの価格にはベースオイルや添加剤、耐熱性・せん断安定性などを狙った設計、製造・販売コスト、ブランドの位置づけなどが関係します。同じMA2でも、中身まで同じとは限りません。
ただし、今回調べた公式ページだけでは、各商品の原価や「何にいくら掛かっているか」までは分かりません。冴速が220円高い理由や、R5000の2製品が同額に設定された理由を、配合から断定することもできません。
この比較から確認できるのは、MA・MA2・MBの分類だけでは、価格も商品全体の性能も決まらないということです。JASO T 903にはエンジン油性能などの要求もありますが、MA・MA1・MA2・MBの区分は摩擦特性によるもの。価格表や品質ランキングではありません。
また、今回調べた代表製品ではMA1単独表示の商品は見つかりませんでした。MA1も正式な分類ですが、比較する現行商品を確認できていないため、無理に値段の欄を埋めることはしません。
値札を見る前に、自分のバイクの指定を確認する
値段を見比べるのは面白いですが、実際に買うときは順番が大切です。
- STEP 1車両の指定を確認する
取扱説明書で、年式・車種に合うJASOの分類、粘度、API規格などを確認する。
- STEP 2指定を満たす商品に絞る
「高いから」「MA2だから」「スクーターだからMB」と決めず、缶と公式資料の表示を照合する。
- STEP 3適合する中から価格を比較する
用途やメーカーの説明を読み、容量・送料も揃えて購入候補を比べる。
たとえばヤマルーブのブルー Forスクーターは、公式ページに湿式クラッチを採用するTMAXには使えないという注意があります。「スクーター用」という商品名だけでも、適合は決められません。ブルー Forスクーターの公式注意事項も確認してください。
規格の読み方で迷ったら、前回のJASO規格の記事へ戻ってみてください。今回は値札、前回は仕組み。両方を見ると、缶の表示を読み違えにくくなります。
まとめ|オイル缶の数字は、戦闘力ではない
ホンダの最上級RACINGはMA。ヤマハは同じMA2・10W-40でも約2倍の価格差。カワサキでは50番より40番が高い例があり、スズキでは同じ条件のMA2とMBが同額でした。
つまり、MA2だから高級、MBだから安物という話は成立しません。値段が違う理由は商品ごとにあっても、その理由をJASOの文字や数字だけで説明することはできないのです。
MA2の「2」は高級品の証明書ではありませんし、MBの「B」はバーゲンのBではありません。値段や数字の大きさで選ぶ前に、まず自分のバイクの説明書を確認しましょう。
オイル缶に書いてある数字は、戦闘力ではありません。

