キャブレターの記事を書いていると、
- メインジェット。
- スロージェット。
- ニードル。
- 油面。
- パイロットスクリュー。
いろいろな部品が出てきます。
そして最終的には、「ジェットからガソリンが吸い出されます」という説明になります。
なるほど。
では、その次です。
フロート室に入っているのは、ただの液体のガソリンです。
それがどうやって空気と混ざり、エンジンへ吸い込まれる頃には細かな霧のような状態になっているのでしょうか。
キャブレターの中に小さな霧吹きでも入っているのでしょうか。
もちろん入っていません。
ここで働いているのが、
- ベンチュリー
- ニードルジェット
- エアジェット
です。
今回はジェットの「何番を選ぶか」ではなく、そもそもキャブレターがどうやって燃料を空気の流れへ乗せているのかを少し深く見ていきます。
この記事の結論
まず、ガソリンはそのままでは燃えにくい
エンジンはガソリンを燃やして動いています。
ただし、燃焼室へコップ一杯のガソリンを、ドボッ。
と入れて火花を飛ばしても、それでうまくエンジンが回るわけではありません。
必要なのは、空気と燃料がよく混ざった状態です。
液体のガソリンをできるだけ細かな粒にして空気中へ散らす。
これを微粒化、アトマイズなどと呼びます。
ここで少し注意したいのが、「霧になる」と「完全に気体になる」は同じではないということです。
キャブレターから出た時点で、すべてのガソリンが完全な気体になっているわけではありません。
非常に細かな液滴になった燃料が空気の中に浮かび、その後吸気ポートや燃焼室へ向かう途中でもさらに蒸発していきます。
つまりキャブレターは、液体ガソリンをいきなり透明な気体へ変える魔法の箱ではありません。
まず細かくする。
空気と混ぜる。
そこからエンジンへ送り込む。
これが仕事です。
最初の主役がベンチュリー
キャブレターを横から見ると、空気が通る大きな穴があります。
この通路は途中が少し狭くなっています。
これが、ベンチュリーです。
空気が広い場所から狭い場所へ入ると、流速が上がります。
そしてその部分の静圧が低下します。
この、空気が速く流れる場所に低い圧力を作るというのがキャブレターの基本です。
Mikuniの資料でも、ニードルジェット付近を通る空気速度が上がることで負圧が大きくなり、燃料がメイン系から供給される仕組みが説明されています。
「ガソリンを吸っている」と言うけれど
よく、「ベンチュリーの負圧でガソリンを吸い上げる」と言います。
間違いではありませんし、普通はこの説明で十分です。
ただ少し正確に言うなら、フロート室側には大気圧がかかっています。
一方でベンチュリー付近は空気が速く流れ、圧力が低くなります。
すると、圧力の高いフロート室側から、圧力の低いベンチュリー側へ燃料が押し出されるということが起きます。
つまりキャブレターが、「ガソリンこっち来い!」とストローで頑張って吸っているというより、圧力差を作った結果、燃料が出てくる。
という方が実態に近いです。
ただ毎回、「大気圧によって燃料が低圧側へ押し出され……」と言っていると会話が終わらないので、普通は「吸い出す」で大丈夫です。
フロート室からいきなり霧が出てくるわけではない
では燃料の道を追ってみます。
大ざっぱにすると、
- フロート室
- メインジェット
- ニードルジェット
- ジェットニードルとの隙間
- ベンチュリー
- エンジン

です。
ここで重要なのが、メインジェットを通った時点では、まだ仕事は終わっていないということです。
メインジェットは主に、通過できる燃料量を制限する穴です。
穴が大きければ多く流れ、小さければ少なく流れます。
しかし、「メインジェットを通過しました。はい霧になりました」ではありません。
その先にもまだ部品があります。
ニードルジェットとジェットニードルは別物
ここでキャブ初心者を軽く混乱させる部品が登場します。
ニードルジェットと、ジェットニードルです。
名前を決めた人には、もう少し相談してほしかったところです。
まず、ジェットニードルはスライドから下へ伸びている細長い針です。
いわゆる、「ニードルの段数を変える」と言ったときのニードルはこちらです。
そして、そのニードルが刺さっている筒状の部品が、ニードルジェットです。
つまり、
です。
アクセルを開けるとスライドが上がります。
するとジェットニードルも上がります。
ニードルは先へ行くほど細くなっています。
そのため上へ持ち上がるほど、ニードルとニードルジェットの隙間が広くなる。
すると通過できる燃料量が増えます。
これが中開度付近で燃料を調整している仕組みです。
Mikuniも、およそ1/4〜3/4開度ではメインジェットを通過した燃料がニードルジェットとジェットニードルの隙間で計量されると説明しています。
ここでエアジェットが登場する
では今回のもう一人の主役、エアジェットです。
名前の通り、こちらはガソリンではなく、空気を計量するジェットです。
「燃料を出したいのに、なぜ途中からわざわざ空気を入れるの?」と思うかもしれません。
ここが今回の記事の面白いところです。
燃料通路へあらかじめ空気を混ぜることで、ガソリンを細かく分散させやすくします。
MikuniのVMでは、エアジェットで計量された空気がメイン系へ入り、ニードルジェット周辺の燃料と混ざることで燃料の微粒化が促されます。
つまり、ガソリンだけを太い液体の柱としてドボドボ出すのではなく、出てくる前から空気を混ぜておく。
という仕組みです。
エマルジョンチューブの小さな穴は飾りではない
キャブレターを分解すると、真鍮製の筒に小さな穴がたくさん開いている部品を見ることがあります。
キャブによって呼び方や構造は違いますが、エマルジョンチューブや、ニードルジェットの一部として扱われるものがあります。
初めて見ると、「なんでこんなところに穴がいっぱい開いてるんだ?」となります。
ちゃんと意味があります。
この穴から空気を取り込み、燃料と混ぜます。
燃料だけだった流れの中へ空気の泡を入れて、空気を含んだ燃料の状態を作る。
そしてそれがベンチュリーへ出たところで、高速の吸入空気にさらされます。
そこでさらに細かく砕かれていきます。
つまり、フロート室から来たガソリンに、一回目の空気を混ぜる↓それをメインボアの高速の空気へ出して、さらに細かくするというイメージです。
キャブの中では、思ったより丁寧にガソリンを扱っています。
ではエアジェットは大きければ大きいほどいい?
ここで、「空気を入れれば霧になりやすいなら、エアジェットを大きくすればいいんじゃない?」となります。
残念ながら、そう簡単ではありません。
エアジェットは、ただの霧吹き強化パーツではありません。
メイン系へ入る空気量が変われば、燃料の流れ方そのものや、回転域による混合気の変化にも影響します。
だからエアジェットにも番手があります。
メインジェットを変えるように、エアジェットもキャブセッティングの一部です。
ただし作用の仕方はキャブの種類によって違うため、「エアジェットを大きくしたら必ず全域で薄くなる」のように単純化して覚えない方がいいです。
FCR、Mikuni VM、TM系などでも回路構成は違います。
まずは、燃料系の中へ空気を入れている場所があるということを知っておけば十分です。
ベンチュリーへ出た瞬間が本番
エアジェットなどから空気を含んだ燃料が、ニードルジェットの出口までやってきました。
そして出口のすぐ横では、エンジンに吸い込まれる空気が、ゴォォォッと高速で流れています。
そこへ燃料が出ます。
高速の空気に触れた燃料は引きちぎられ、細かな液滴になります。
これがエンジンへ送られていきます。
つまりキャブレターは、単純に、空気の中へガソリンを垂らしているわけではありません。
圧力差で燃料を運び、量を計り、途中で空気を混ぜ、高速の吸入空気へ放出して細かくする。
全部機械だけでやっています。
ECU。
インジェクター。
燃圧センサー。
電子制御。
ありません。
あるのは、穴と筒と針と圧力差。
これでエンジンが普通に走るところまで燃料を調整しているわけです。
改めて見るとかなりよくできています。
スロージェット側でも同じようなことをしている
ここまでメイン系を中心に説明しましたが、空気を混ぜて燃料を細かくする考え方は、スロー系にもあります。
パイロットエアジェットやエア通路から空気を取り込み、スロージェットで計量された燃料と混ぜてから、アイドルポートやバイパスポートへ送る構造があります。
つまりアイドリング中も、単純にスロージェットから生のガソリンを垂らしているわけではありません。
小さな穴の中で、燃料。
空気。
圧力差。
これらを使って混合気を作っています。
そしてスロー系は通路が非常に細い。
だから長期放置すると、真っ先に機嫌を損ねます。
何年も放置したキャブを開けて、メインジェットは通っている。
でもアイドリングしない。
そんなときにスロー系が疑われるのも、この細さを考えれば納得できます。
スロットルバルブのカッタウェイにも意味がある
もう一つだけ。
丸スライドなどを見ると、スライド下側が斜めに削られています。
これが、カッタウェイです。
見た目だけのデザインではありません。
スライドが少し開いた領域では、この形によってニードルジェット周辺を流れる空気や圧力が変わります。
そのためカッタウェイの大きさも、特に低開度から中開度へ移るあたりの混合気に影響します。
Mikuniの資料でも、スロットルバルブのカッタウェイがニードルジェット付近の負圧を変え、燃料供給量に影響することが説明されています。
つまりスライドは、ただ上下して空気量を変えているだけではありません。
その下端の形まで燃料供給に使っています。
この辺から、「キャブって穴が開いてるだけでしょ」では済まなくなってきます。
油面が重要な理由もここにつながる
以前の記事で、油面が高ければ濃くなりやすく、低ければ薄くなりやすいという話をしました。
これも今回の仕組みから考えると分かります。
燃料はフロート室からニードルジェットの出口まで上がってきます。
油面が高ければ、燃料が出口まで移動しなければならない高さが小さくなります。
つまり燃料を持ち上げやすい。
逆に油面が低ければ、より大きな圧力差が必要になります。
Mikuniも、フロート室の燃料レベルが高すぎれば混合気が濃くなり、低すぎれば薄くなると説明しています。
だから、メインジェット。
ニードル。
スロージェット。
全部正しい。
それでも濃い。
というときに、油面まで確認する必要が出てきます。
全部つながっています。
大口径キャブならたくさん空気が入って最強?
ベンチュリーの話をすると、「じゃあキャブ径は大きい方がたくさん空気を吸えてパワーが出る」と思いたくなります。
半分正解です。
大口径にすれば高回転で大量の空気を流しやすくなります。
しかし低回転では、通路が広すぎると空気の流速が上がりにくくなります。
流速が落ちれば、ニードルジェット周辺で燃料を引き出すための圧力差も作りにくくなります。
その結果、低回転のレスポンスが悪くなる場合があります。
つまり、大きければ偉いではありません。
小さめのキャブは高回転の絶対流量では不利でも、低中回転では流速を作りやすい。
大きなキャブは高回転では有利でも、低回転で扱いにくくなる場合がある。
キャブ口径にも理由があります。
エンジンが250ccだから適当に35。
400ccだから39。
そんな単純な話でもありません。
「メインジェットだけ替えればいい」が危ない理由
ここまで見ると、キャブセッティングがなぜ面倒なのかも見えてきます。
例えば中開度で濃い。
そこで、メインジェットを小さくする。
確かに変化するかもしれません。
でも中開度では、メインジェットだけでなく、ジェットニードル。
ニードルジェット。
エアジェット。
油面。
カッタウェイ。
これらも関係しています。
キャブレターは、一つのジェットが一つの回転域を完全担当しているわけではありません。
それぞれの回路が重なりながら働いています。
だからキャブセッティングで、一気に三つも四つも変えると、何が効いたのか分からなくなります。
以前の記事で、一回に一つだけ変えると書いたのもこのためです。
キャブは部品同士が普通に話し合っています。
人間側まで全員同時に動かしてしまうと、もう誰が原因なのか分かりません。
まとめ|キャブはガソリンを吸うだけの装置ではない
キャブレターの仕組みをかなり大ざっぱに言えば、
- 空気が流れる
- ベンチュリーで流速が上がる
- 圧力が下がる
- フロート室との圧力差で燃料が出る
です。
でも実際にはもう少し仕事をしています。
- フロート室
- メインジェットで燃料量を計る
- ニードルジェットとジェットニードルでさらに量を調整する
- エアジェットから空気を入れる
- 燃料を細かくしやすい状態にする
- ベンチュリーを流れる高速の空気へ放出する
- 細かな燃料粒としてエンジンへ送る
という流れです。
メインジェットを見ると、ただ真鍮に穴が開いているだけ。
エアジェットも穴。
ニードルもただの細い棒。
ニードルジェットも筒。
それぞれ単体で見ると、本当にこれで大丈夫か?
というくらい単純です。
でも全部組み合わせて、空気の速度と圧力差だけで燃料を計り、細かくし、アクセル開度に合わせて量まで変える。
電気は一切使いません。
キャブレターを分解すると、小さな穴が山ほど出てきます。
昔は、「また穴か」くらいにしか思わなかったかもしれません。
でもその穴の一つから燃料が来て、別の穴から空気が来て、その二つが途中で合流して、最後にはエンジンへ送る霧を作っています。
そう考えると、キャブの小さな穴は、だいたい何か仕事をしています。
だから清掃するときも、「この穴、何の穴か分からないけど通ったからヨシ」で終わらせず、どこから来てどこへ抜けているのか見てみる。
そこまで分かってくると、キャブレターは一気に面白くなります。


