前の記事では、スパークプラグの役割や熱価、交換時期について説明しました。プラグが混合気へ火を付ける部品なのは分かった。では次の疑問です。その火花、どこから来ているのでしょうか。
12Vのバッテリーからコードをそのままつないでも、燃焼室で元気よく火花が飛ぶわけではありません。プラグを放電させるには高い電圧が必要です。NGKは点火コイルが約20,000~35,000Vを作ると説明し、DENSOは通常の点火系の二次電圧を10~30kV程度としています。いずれも目安で、車両や放電条件で変わります。
そこで登場するのがイグニッションコイル、CDIやイグナイター、プラグコード、プラグキャップ。名前だけ見ると急に電気工事の資格が必要そうになりますが、流れ自体はそれほど難しくありません。
この記事の結論
火花はプラグだけでなく、電源・制御・コイル・接続部が協力して作ります。
プラグが放電できる電圧を用意する。駆動方法は点火方式で違う。
CDI・TCIなどの方式と、ECUなどの装置名を分けて確認する。
圧縮・負荷・温度で条件が変わる。部品交換の前に順番に調べる。
電源、端子形状、点検方法は車種・製品の指定を確認してください。
点火系を一列に並べると分かりやすい
車種によって構造は違いますが、役割をざっくり並べるとこんな流れです。
バッテリー・発電機 → 点火を制御する装置(CDI・イグナイター・ECUなど) → イグニッションコイル → プラグコード → プラグキャップ → スパークプラグ → 燃焼
さらにクランク角センサーやピックアップコイルなどが、回転位置の情報を点火装置へ知らせています。言ってみれば「今だ!」の合図です。
つまりプラグは一人で勝手に火花を飛ばしているわけではありません。かなりの人数で一本の火花を作っています。
この並びは役割を理解するための図です。すべての車両で電気がこの順に直列につながっているわけではなく、電源の取り方や制御の配線は異なります。プラグコードを使わない構成もあります。
イグニッションコイルは何をしている?
点火系の中でも重要なのがイグニッションコイルです。役割は、低い電圧から、プラグが放電できる高い電圧を作ること。一般的なバッテリー点火なら元になる電源は約12Vで、プラグ側では数万Vに達する電圧を作ります。
「12Vが突然2万Vになるって大丈夫なの?」となりますが、中には大きく一次コイル・二次コイル・鉄心があります。二次側の巻き数は一次側より多く、磁界の変化で電圧が生じる電磁誘導を利用します。
TCIやポイント式などでは、一次コイルへ電流を流して磁界を作り、点火する瞬間に電流を遮断します。磁界が急に変化することで、二次側に高電圧が発生します。CDIはコンデンサの放電で一次側を駆動するため、同じ「電流をためて切る」説明だけでは正確ではありません。
コイルは火花そのものというより、火花を飛ばせる電圧を作る装置と考えると分かりやすいです。必要な電圧はプラグやエンジンの状態で変わり、常に一定の数万Vが出ているという意味でもありません。
CDI・TCI・イグナイター・ECUの違い
CDIは電気をためて、一気に放出する
古いバイクやキャブ車を触っていると、CDIという言葉がよく出てきます。正式にはCapacitor Discharge Ignition。日本語ではコンデンサ放電式点火などと呼ばれます。
名前の通り、電気をコンデンサへ蓄えておき、点火する瞬間にそのエネルギーをイグニッションコイルへ送り込む方式です。
電気をためる → 点火時期が来る → 一気に放出する → コイルで高電圧を作る → プラグが火花を飛ばす。かなりざっくり言えば、この流れです。
黒い箱なら全部CDIではない
シートやタンクを外して黒い箱を見つけると、「これがCDIだな」と言いたくなります。でも、黒い箱だからといって全部CDIとは限りません。
| 名称 | 何を指す? | 確認したい違い |
|---|---|---|
| CDI | コンデンサの放電を使う点火方式・装置 | 電源の取り方、適合するコイル |
| TCI・トランジスタ式点火 | トランジスタで一次電流を遮断する点火方式 | コイルへ通電し、遮断する仕組み |
| ポイント式点火 | 機械的な接点で一次電流を遮断する点火方式 | 接点や進角機構の状態 |
| イグナイター | 点火コイルの駆動などを受け持つ装置の呼び名 | 名称と構成は車種で異なる |
| ECU | エンジンなどの電子制御を行う装置 | 点火時期や燃料噴射の制御を担当する構成がある |
Yamahaも古くから、CDIとは別にトランジスタ制御のTCIを採用していました。最近のインジェクション車では、燃料噴射だけでなく点火時期もECUで制御する構成が一般的です。
ここで大切なのは、CDI・TCIという点火の方式と、ECUという制御装置の呼び名を同列にしないこと。配線図やサービスマニュアルで、その車両の構成を確認します。
CDIという言葉が有名なので、黒い箱全員がCDIと呼ばれがちです。本人にとっては少し迷惑かもしれません。
バッテリーがないと火花は飛ばない?
ここも車種によって違います。バッテリーを電源とする点火系では、バッテリー電圧が大きく低下すると正常に点火できなくなる場合があります。
一方、発電機側で点火用の電気を作る構成もあります。そのため、バッテリーが死んだ=すべてのバイクで絶対に火花が飛ばないとは限りません。
たとえばHondaのCL400は、キック始動とCDI式マグネット点火を採用していました。ただし、キック始動だから、あるいはCDIだから、必ずバッテリーなしで動くと判断することはできません。
インジェクション車では、ECUや燃料ポンプ、各センサーなどを動かす電源も必要です。同じ「バイク」でも電気の仕組みはかなり違います。
点火用の電源、始動装置、燃料供給を分けて見ると、バッテリーの状態がどこに影響するのか整理できます。外見や始動方法だけで決めつけず、車種の資料を確認しましょう。
プラグキャップ・端子・コードも点火系の一部
プラグキャップはただのゴムのフタではない
見た目はプラグにカポッとはめるだけの部品ですが、役割はちゃんとあります。コイルから来た高電圧をプラグへ確実に伝え、外へ漏れないよう絶縁します。
さらに抵抗体を内蔵した製品もあります。NGKの二輪用プラグキャップには、セラミック抵抗体で電気的なノイズを抑える構造のものがあります。だから「つながっていれば何でもいい」という部品ではありません。
プラグの頭に付いている小さなナットも重要
プラグ上部の端子は、高圧側を接続する部分です。ターミナルナットを付けた形で使うものと、着脱できるナットを外してネジ形端子で使うものがあり、プラグキャップ側の仕様に合わせます。
新品を買って「前のプラグと頭の形が違う」となっても、いきなり不良品とは限りません。指定品番と端子形状を確認します。
すべての端子ナットが取り外せるわけではありません。一体形や固定形を無理に回さず、プラグメーカーの仕様と車両の指定を確認してください。
プラグコードも高電圧を運んでいる
コイルからキャップまで伸びる太いコードが、プラグコード、ハイテンションコードなどと呼ばれる部分です。コイルで作られた高電圧を伝えるため、被覆の絶縁や接続状態も重要です。
古いバイクではコードの硬化・ひび割れ・接続部の腐食・水分の侵入などを確認します。本来プラグまで行くはずの電気が途中で漏れると、失火につながる場合があります。電気も目的地へ行かず途中下車することがあります。
プラグコードが見当たらない構成もある
コイルオンプラグは、イグニッションコイルをプラグのすぐ上などに配置する構成です。ダイレクトイグニッションと呼ばれるものにも、この構成があります。
一般的なコイルオンプラグ式では、離れたコイルから伸びる長いコードを使いません。「プラグコードがない。誰か外した?」と焦る必要はなく、コイルそのものがプラグの上に座っている場合があります。
これはコイルの配置・接続の話です。CDIかTCIか、ECUがどう制御するかという話とは分けて考えます。
点火時期も非常に重要
点火系は火花が強ければいいだけではありません。いつ火花を飛ばすかも重要です。ピストンの位置に対して適切なタイミングで点火する必要があり、早すぎても遅すぎてもエンジンの働きに影響します。
昔のバイクには機械式の進角装置を使うものがあり、その後は電子制御が増えました。現在ではエンジン回転数や負荷などを見て、ECUが点火時期を制御する車種も多くあります。
つまり点火系は、「プラグへ必要な高電圧を届ける仕組み」と「いつ火花を飛ばすか決める仕組み」の両方で成り立っています。
火花が見えても正常とは限らない|不調の考え方
外で火花が飛んだ=点火系は完全に正常?
プラグを外して火花を確認したら、青白い火花が見えた。「よし、点火系は100%問題なし」と判断したくなりますが、少し注意が必要です。
プラグが実際に仕事をしているのは、エンジン内部で混合気が圧縮された状態です。外での確認と、燃焼室内や高負荷での条件は同じではありません。
またプラグギャップが広くなるほど、放電に必要な電圧は高くなります。広すぎるギャップなどで必要電圧がコイルの能力を超えれば、火花が飛ばない場合があります。外で火花が見えたことは重要な情報ですが、それだけですべてが正常とは言い切れません。

イグニッションコイルが弱るとどうなる?
コイルや周辺部品に問題があると、始動しにくい、アイドリングが不安定、加速すると失火する、高回転で吹けない、温まると調子が悪い、特定の気筒だけ失火する、といった症状が出る場合があります。どれもコイル故障を断定できる症状ではありません。
厄介なのは、キャブや燃料系の不調と似ていることです。たとえば「高回転でボコボコする。メインジェットか?」とニードルやMJを変えても直らず、調べると点火系だった、ということは考えられます。
キャブ車の調子が悪いからといって、原因まで必ずキャブとは限りません。高回転で吹けないときの切り分けも、燃料系と点火系を並行して考える参考になります。
空気・燃料・圧縮・火花を分けて考える
エンジンが正常に動くには、大きく考えると空気、燃料、圧縮、適切なタイミングの火花が必要です。キャブの記事をたくさん読んでいると、不調の原因をどうしてもキャブの中に探したくなります。
ガソリンは来ている、キャブもきれい、ジェットも適切、圧縮もある。それでも調子が悪いなら、点火系も見る必要があります。ただし、これらが正常かどうかも車種の基準に沿って確認します。
逆に火花が飛ばないからといって、いきなりCDIを新品に交換するのも早すぎます。キルスイッチ、サイドスタンドスイッチ、プラグキャップ、コネクターの抜けなど、ほかにも候補はあります。
電装品は見えないので、つい一番高そうな黒い箱を疑いたくなります。黒い箱も迷惑しています。
点火系を見るときは高電圧に注意
点火系では数万Vに達する高電圧が発生します。プラグコードやキャップを手で持ちながら「セル回してみて」はやらないでください。感電のおそれがあります。
火花の点検は燃料や可燃性の蒸気から離れ、車種で指定された手順・器具を使います。誤った接地、測定や短絡は電子部品の損傷にもつながるため、サービスマニュアルの点検方法と基準値に従ってください。
何でもテスターを当てれば分かる、という世界でもありません。判断に迷う場合は整備店へ相談しましょう。
結論|プラグの火花は、点火系みんなで作っている
スパークプラグは混合気に火を付けます。その火花のためには、電源、点火時期を決める装置、コイル、接続部、プラグが正常に働く必要があります。
新品プラグに交換しても直らない。これは普通にあります。プラグは点火系の一番最後にいる部品だからです。
車種ごとに点火方式、制御装置、電源や接続の構成も違います。まず自分のバイクの仕組みを確認し、そのうえで一つずつ調べる。キャブと同じで、一気に全部交換する必要はありません。
火花が見えないから「CDIだ!」と黒い箱を注文する前に、もう少し手前から見ていきましょう。
実際の不調を調べるときは、エンジンがかからないときの切り分けへ。プラグ自体の熱価や交換時期は、スパークプラグの基本の記事で整理しています。