キャブのチョークとは?実はチョークじゃない?冷間始動で何が起きているのか

キャブ車に乗っていると、寒い朝にお世話になるのがチョークです。エンジンが冷えている。セルを回す。かからない。そこでチョークを引く。もう一度セルを回す。ブォン。「やっぱりチョークだな」。

では、チョークを引くとキャブの中で何が起きているのでしょうか。混合気を濃くする、という説明は正解です。ただし、バイクで「チョーク」と呼ばれているものの中には、本当の意味ではチョークではないものもあります。名前はチョーク。レバーにもチョークと書いてある。でも中では違う仕事をしている。今回はこの少しややこしい部品を見ていきます。

この記事の結論

冷えたエンジンが始動しにくいときは、燃焼に参加できるガソリンが足りなくなりやすいため、始動時だけ混合気を濃くします。その方法と、暖まった後の扱いを分けて考えると分かりやすくなります。

01本来のチョーク

空気を絞り、相対的に燃料の割合を増やして混合気を濃くします。

02スターター/エンリッチナー

空気を絞るのではなく、始動用回路から燃料を追加する方式です。

03FCRの始動

「チョーク」と呼ばれるノブも、実際にはスターター回路の場合があります。

04加速ポンプは入れすぎない

仕様によっては始動前の噴射を使えますが、始動中に煽り続けるとカブる原因になります。

冷間時は少し濃く、暖機後は余計な燃料を戻す。この前提で、車種ごとの始動手順を確認します。

そもそも、なぜ冷えたエンジンは始動しにくいのか

普段キャブレターは、空気とガソリンを混ぜてエンジンへ送っています。ところがエンジンが冷えていると、ガソリンがうまく気化しにくくなります。液体のガソリンを送り込めば何でも燃えるわけではありません。燃焼室で火をつけるには、ガソリンがある程度細かくなり、空気と混ざってくれないと困ります。

暖まったエンジンなら普通の混合気で問題ありません。しかし真冬の朝などは、いつもの量のガソリンを送っても、実際に燃焼へ参加してくれるガソリンが足りない状態になりやすくなります。そこで冷間始動時だけ、いつもより濃い混合気を送る。これがチョークやスターター回路の仕事です。

POINT:始動用の仕組みは、冷えたときだけ燃焼に参加できる燃料を補うためのものです。暖機が進めば、同じ濃さは必要なくなります。

本来のチョークとスターター回路は、濃くする方法が違う

始動用混合気を濃くする方法には、大きく二つあります。目的は同じでも、キャブの中でしている仕事は逆です。

REAL CHOKE / LESS AIR

本来の「チョーク」

キャブレターの入口側にチョークバルブを設け、空気の通り道を絞ります。吸入空気が減り、相対的にガソリンの割合が増えて混合気が濃くなります。

STARTER / MORE FUEL

スターター/エンリッチナー

通常のスロー系やメイン系とは別に、冷間始動専用の燃料通路を開きます。燃料を追加して、始動できる濃さを作ります。

空気を減らす本来のチョーク

英語の「choke」には、絞る、塞ぐという意味があります。通常は空気が多く燃料が少ないところを、チョーク使用時には空気だけを減らす。空気が多いなら減らしてしまえ、というかなり素直で、いかにもキャブレターらしい方法です。

「チョーク」と呼ばれていても空気を絞っていないもの

バイクのキャブには、チョークレバーやチョークノブを操作しても空気を絞っていないタイプがあります。ノブを引くとスタータープランジャーが開き、専用回路から濃い混合気が送られます。これをスターター回路、スターターシステム、エンリッチナーなどと呼びます。方法は逆ですが、目的は同じです。

方式キャブ内でしていること結果
本来のチョーク空気の通り道を絞る燃料の割合が相対的に増え、濃くなる
スターター/エンリッチナー始動用回路から燃料を追加する始動に必要な濃い混合気を作る

FCRの「チョーク」も実際にはスターター回路

FCRを触っている人なら、キャブの横に付いている黒いノブを「チョーク」と呼んでいることがあると思います。私も普通にチョークと言います。ただ構造としては、空気の入口を塞ぐ昔ながらのチョークとは違い、始動用のスターター回路です。

スタータープランジャーを開いて、冷間始動用の濃い混合気を作ります。「FCRのチョークを引く」という会話は普通に通じますが、キャブの入口で板がパタンと閉じているわけではありません。名前と仕事内容が少しズレています。まあ、バイクではみんなチョークと呼んで困っていないので、普通はそれで通じます。

チョークがないFCRは、加速ポンプを使って冷間始動することがある

FCRなどの加速ポンプ付きキャブには、チョークやスターター機構が付いていない仕様があります。そんなキャブで冷えたエンジンを始動するときに使われるのが、始動前にスロットルを2〜3回開ける方法です。エンジンはまだ回っていなくても、FCRの加速ポンプはスロットルを開ければ機械的に動きます。

アクセルを開ける
加速ポンプが作動
ノズルから燃料が噴射
吸気ポート側へ燃料が入る
アクセルを閉じる
その状態でキックする

要するに、加速ポンプを簡易的な始動用燃料ポンプとして使ってしまうわけです。加速ポンプ本来の役割と仕組みは、FCRの加速ポンプとは?で詳しく解説しています。エンジン停止中でもアクセルを動かせばガソリンは出る。だったら始動前に先に少しガソリンを入れておけばいい。非常に機械的です。

「アクセル2〜3回」は本当にやる方法なのか

これは昔からの経験則だけではありません。HondaのFCRを搭載したCRF450Rなどにも似た始動方法が正式に指定されています。気温が0℃未満の場合、始動前にスロットルを2〜3回開き、加速ポンプが追加燃料をシリンダーへ送って寒冷時の始動を助ける、という考え方です。

ただし、2〜3回がすべてのFCRで正解というわけではありません。排気量、気温、加速ポンプの吐出量と吐出時間、キャブセッティング、エンジンの状態で必要な燃料量は変わります。1回で十分な車両もあれば、寒い日にもう少し必要になる車両もあります。「このくらい入れると一発目が来る」という回数を、自分のバイクで覚えていく部分でもあります。これもキャブ車です。

始動中までアクセルをバカバカ煽らない

始動前にクイッ、クイッと加速ポンプから燃料を入れる。ここまではいい。では、そのままキックしながら何度もアクセルを開閉するとどうなるか。今度はガソリンを入れすぎます。HondaのFCR車の始動手順でも、始動前にスロットルを開いた後は、スロットルを閉じた状態でキックするよう指定されています。

注意:FCRだから必ず2〜3回煽ればよいわけではありません。始動前に必要な分だけ燃料を入れ、アクセルを閉じて始動するのが要点です。始動中まで煽り続けると、余分な燃料でプラグがカブり、逆に始動しにくくなる可能性があります。

キック車で「始動の儀式」が生まれる理由

古いキャブ車やレーサーでは、「冷えているとアクセル3回」「夏は1回」「冬は3回」「温まっていたら絶対に煽らない」といった話があります。知らない人から見ると何かのおまじないに見えます。でも実際には、加速ポンプを1回動かせばその分だけ燃料が出る、という理屈があります。冷間時は少し追加したい。暖機後は追加すると濃すぎる。だから気温やエンジン温度によって回数を変える。ただそれだけです。

暖機後と、チョークが効かない・戻らないときの見方

なぜ暖まったらチョークを戻すのか

冷間時にはありがたい濃い混合気ですが、エンジンが暖まった後まで必要なわけではありません。暖機が進むとガソリンも気化しやすくなります。そこでいつまでもチョークやスターターを使っていると、ガソリンが多すぎます。アイドリングが不安定になる、ボコボコする、排気がガソリン臭い、プラグがカブる、場合によってはエンストする。朝はあんなに必要とされていたのに、暖まった途端に邪魔者扱いです。

エンジンが始動したら様子を見ながら徐々に戻し、普通にアイドリングできるようになったら完全に戻します。

チョークを引いても何も変わらない場合

冷間時にチョークを引いても、回転がまったく変わらない、始動性も変わらない、引いても戻しても同じ、という場合。「古いバイクだからこんなものか」で済ませる前に、一度スターター回路を疑ってもいいと思います。

POINT:確認する場所スタータージェットや通路の詰まり、スタータープランジャーの固着、ワイヤーの調整不良、プランジャー先端やOリングの劣化、長期放置によるガソリンの固着物を確認します。通常のジェットだけ掃除して、始動専用の通路を忘れていた、ということもあります。

逆に、チョークを戻しても濃い場合

チョークを戻しているのに、プラグが黒い、ガソリン臭い、アイドリングが安定しない、暖まるとかかりにくい、という場合は、スタータープランジャーが完全に閉じていない可能性もあります。ワイヤーに遊びがなく引っ張った状態になっていないか、プランジャーが汚れや錆で引っ掛かっていないか、ゴム部分が傷んで密閉できているかを見ます。

チョークを戻したつもりなのに、キャブの中ではまだ少しチョーク中、ということがあります。濃い症状を追いかけてスロージェット、ニードル、パイロットスクリューを触る前に、機構がちゃんと閉じているか確認した方が先です。

暖まったエンジンでは話が逆になる

チョークや加速ポンプを使った始動は、冷間時に燃料を増やしたいから行うものです。暖機後は事情が逆になります。FCRを使ったレーサーなどに付くホットスターターは、暖まったエンジンの再始動時に空気を増やし、濃くなりすぎた混合気を始動しやすい方向へ持っていく装置です。

冷えているときは燃料を増やしたい。熱いときは燃料を増やしたくない。この前提で見ると、チョーク、スターター回路、加速ポンプ、ホットスターターは全部バラバラの部品ではなく、そのときエンジンが欲しがっている混合気を作るための仕組みとしてつながってきます。

まとめ

チョークは「寒いから引くレバー」だけではありません。冷えたエンジンではガソリンが気化しにくく、普通の混合気では始動しにくい。そこで始動時だけ混合気を濃くします。その方法には、空気を絞る本来のチョークと、燃料を追加するスターター/エンリッチナーがあります。

さらにチョークのない加速ポンプ付きキャブでは、始動前に加速ポンプを数回動かして先に燃料を入れておく方法もあります。ただし入れれば入れるほどよいわけではありません。足りなければかからない。入れすぎればカブる。そして暖まれば、今度は余計な燃料はいらない。この辺りはキャブレターそのものです。

電子制御ならコンピューターが判断するところを、気温を感じ、エンジンの状態を見て、人間が燃料を足す。

「今日は寒いから2回かな」で、キック一発。これが決まると、ちょっと気持ちいい。

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